灯「体」もと暗し(撮影見学後記②)

(際立って光量が強かった照明機材) ※English version will be released  in a few days  こんにちは。TYA(HK)LimitedでインターンをさせていただいているKです。先日CMの撮影を見学し、記事を全2回に渡り書いています。今回は撮影を支える照明技術に注目します。 照明は基本的に撮影において被写体の見え方を左右する鍵ですが、今回の撮影はとくに、建物の特徴やCMの演出上照明が重要な役目を演じていると感じました。    この記事では、現場で見つけた照明関係の発見を書いていきます。日常生活で効果的に照明を使うときに役立つものもあるので、みなさんが照明を見るときに思い出していただければと思います。   タイトルは、ことわざ「灯台下暗し」をもじったものです。照明機材のことを灯体というので、いつも視界を照らしてくれる照明にこそ、映像・写真表現の大事なポイントがあるのではないかという意味をこめました。 映える、映やす          今回の撮影では、役者さんが白い衣装を着て、日光の中で撮影する演出がありました。写真から、階段の上と途中にいる白い服を着た役者さんの服に光が反射しているのがわかると思います。この時、写真右上奥から、よく晴れた春の日の日光くらいの明るさの光があたっていました。   二人の役者さんの間にいるストライプのTシャツのスタッフと比較して、役者さんの服でより光が反射しているのがわかると思います。外の光が入る環境である、つまり明るい光源斜め上、横からあたり、光の反射色である白色でかつシルク調のつやのある素材を着ることで、透明感が出てさわやかなイメージになります。   光源は、同じ斜め上でも、カメラと同じ方向にあると立体感が出づらいが被写体のすべての部分がはっきり見えます。からだと凹凸を表現して材質を生かせますが明暗の差が目立ち、後ろからだとミステリアスな雰囲気になります。今回は横から当てています。   ストライプのTシャツの暗い色の部分は光を反射していないのはもちろん、白い部分も光を反射していません。これはTシャツがコットンなどつやのない素材で出来ていることによりますが、その方が映える場面もあります。   こちらはフリー素材の写真です。光源は明るいですが全体的に薄暗いため、服(とくにジーンズ)に細かく影が落ちていて、しわの一本一本から雰囲気が伝わってきます。もちろん被写体に近づいた寄りの写真であることも雰囲気を作る要因です。このように、狭いスペースで全体的に薄暗い環境で、つやのない素材の服を着ることで生活感、こなれた感じが演出できます。   やわらかい光? 今回に限らずCMなどの撮影でよく見かけるのが写真のようなディフューザーです。   灯体から被写体に光が届くまでに布を一度通すことで、ライトのつるつるした面ではなく布のざらざらした面からの光となり、はっきりしていない影が出るようになります。影だけでなく、光を反射する明るい部分(人の頬など)もぼんやり明るい程度になります。明るい部分と暗い部分の差が少ない明かりは、やわらかい、やさしいイメージを伴います。   光は直進します。灯体の表面はある程度つるつるしていて光が一定方向にしか出ないのに対し、布の表面には多くの凹凸があるため四方八方に光が分散して、部屋のあちこちで反射し被写体に届いたものが目に見えます。そのため明るい部分と暗い部分の差が小さくなります。   内側が白いアンブレラを使って写真館で撮影をしたことがある方もいると思いますが、アンブレラもカメラのストロボなどの光をより多くの方向に反射させ、単にフラッシュを炊くより明るいところに集まる光を少なく、暗いところに集まる光を多くしています。   こちらもフリー素材です。これは路上での写真ですが、影がはっきりしていて明暗の差も大きいことがわかると思います。先ほどとは反対に機械のかっこいい感じ夜特有の雰囲気を演出する際は、灯体の光がそのままあたり明暗がはっきりしているほうが好ましいです。   日光は特別 こちらは撮影現場の床を撮影した写真です。実際にはこの時は曇天だったのですが、奥の方から照明の光が当たって日光のように見えます。画面右の植物の葉に注目すると、光が当たっている部分の葉はみずみずしい黄緑色に見えると思います。   こちらは外からガラス越しに同じ植物を撮った写真です。曇天だったとはいえ、植物は窓際においてあったことから明るさは十分なはずなのに、先ほどの写真より葉の緑色が濃いことがわかります。また、先ほどの葉のほうがハリがあるように見えました。   なぜ撮影現場では、人工の光で本物の太陽光より太陽光らしい表現ができたのでしょうか。   この問題を解決するにあたって、逆のパターンを考えてみます。人工光があたる屋内に観葉植物をおいても、外にある植物より生気が感じられなかったことはありませんか。これらの現象には、太陽光と人工光の違いが関係しています。細かい説明は省きますが、一筋に見える光にも様々な色の光が含まれています。特に白い光は、紫、青、黄、赤などたくさんの光が混ざりあって白く見えています。   LEDの光と太陽光では、各々の色の光が含まれている割合が違います。一般に、同じ白い光でも、太陽光よりLEDの光のほうが青い光が多く含まれているといえるのです。   撮影現場でその時の太陽光より太陽光らしい光を発していたのは、実はLED照明ではない特別な灯体でした。     このライトは、ARRIという会社のM-Series M90というモデルです。この灯体には、リフレクター(灯体の中の、鏡のようになっていて光を増幅させる部分)が工夫されていて光量が他の種類より1.5倍大きいなど様々な特徴があるのですが、第一の特徴がHMIライトであるという点です。   HMIライトとは、Hydrargyrum Medium-Arc Iodideの略で、光が発されるシステムが白熱電球やLEDとは違う灯体のことです。光の色のバランスが太陽光とほぼ変わらず、「持ち運べる太陽」と言われています。さらに、非常に光量が大きく、野球場や体育館でも使われています。   HMIライトは、値段は他より高価ですが、とても有用な灯体です。これが太陽光を現実以上に再現できる理由だったのです。   撮影現場の黒   こちらは撮影現場の写真です。とくに説明がなくても、機材スタッフが二名いるのがわかります。理由は他でもなく、黒い服を着ているからです。   よく、日本語で裏方の人を黒子、黒衣といいます。これは歌舞伎などの日本の伝統芸能で、黒い服を着ている人は舞台上にいないものとする決まりごとがあり、裏方が黒い服で舞台上に登場し役者小道具を渡したり役者を助けたりしたことから来ているそうです。しかし、ここ香港だけでなく、日本以外の他の国でも裏方は黒い服を着ることがスタンダードです。   裏方が黒い服を着る理由はなにがあるのでしょうか。個人的に照明演出に携わらせていただいたことがあるので、その時に言われていたことを含めて理由を紹介します。   ①被写体への影響を最小限にするため 他の部分で書いてきたように、白い色は光を反射します。スタジオなどで人の顔を明るくするために白いレフ板を用いることがありますが、逆に白い服が必要以上に被写体を明るくしてしまうことがあります。カメラや三脚などの機材が黒いのも同様の理由によるものです。逆に人物の写真撮影を屋外で行うときなどは、白い服を着ていくとレフ板代わりになるとも言えます。   ②気配を消す 黒には、その色のものを収縮して見せる効果があります。黒い服を着ると痩せて見えるという話を聞いたことがあるのではないでしょうか。黒いものは小さく見え、また目立ちにくいため、舞台や現場の雰囲気を崩さないために黒い服を着ます。役者さんの立場にからしても、カメラの後ろだけでなく横にも上にもいるスタッフたちがみんな黒い服を着ていることで圧迫感が軽減されます。   ③スタッフであるとわかりやすくする 一番大きな理由はもちろんこちらです。裁判官の法服、スーツなどにも見られるように知的なイメージがある暗い色は専門性の高い裏方スタッフにふさわしいだけではありません。今回のCM撮影の現場を例に取ると、役者さん、そのマネージャーさん、TYAのような広告会社、CMのクライアント企業さん、また公共の場所での撮影だったため一般の人たちなどたくさんの人間が現場を行き来していました。そこで裏方スタッフが黒い服を着ていることで、機材トラブルや迅速な搬出・撤収のときに瞬時にスタッフ同士助けを求めることができます。 まとめ   今回は照明についての発見を取り上げましたが、CM撮影の見学を通して、1分に満たない時間のCMを作るのにも2か月以上の時間と30人ほどの人手、数えきれないカメラと照明機材などたくさんの手間と、いいものを作るという根気が必要なことがわかりました。   これで全2回の撮影見学後記は終了です。ご覧いただきありがとうございました。

RECENT POST