【マーケの種 96】責任感とマーケティング戦略②

― JALとANAに見る「責任の方向性」 ―


■ 同じ空を飛んでも、責任の示し方は違う

日本を代表する航空会社といえば、JAL(日本航空)とANA(全日本空輸)。どちらも質の高いサービスで知られていますが、運航判断における責任感の示し方にははっきりとした違いがあります。

JALは、天候悪化などの際に早めに欠航を決める傾向があります。これは、顧客の安全とスケジュールに対する責任を、「リスクを回避すること」で果たすという考え方です。予定が狂うことは避けられませんが、早い判断によって、顧客が他の手段を検討しやすくなるという配慮が働いています。

一方でANAは、可能な限り運航を継続する方針を持っています。天候や状況を慎重に見極めながら、「できるかぎり飛ばす」ことに責任を感じているのです。ギリギリまで判断を保留することで、顧客の移動予定を可能な限り守ろうとします。


■ 「安全」と「柔軟性」、それぞれの責任感

このように、両社はどちらも責任感を持って行動しているのですが、そのベクトルが**リスク回避(JAL)機会最大化(ANA)**に分かれている点が興味深いところです。

JALは、「万が一が起きないこと」を最優先とし、安心感と予測可能性をブランド価値として提供しています。そのため、多少の不便があっても、早期アナウンスや代替案の提供など、「先手を打つ」ことに企業姿勢が表れています。

一方、ANAは「できる可能性を最後まで探る」ことに責任を感じています。
挑戦や柔軟な対応をブランドの軸に据え、顧客の移動や予定への影響を最小限に抑えようと努力します。これは、「最後まで諦めない」という姿勢そのものが、信頼に値すると考えているためです。


■ ブランド戦略にどう映るか

この違いは、マーケティングメッセージにも明確に表れています。

  • **JALは「安心・信頼・安定性」**をキーワードに、ストレスの少ない旅、確実な計画、落ち着いたサービスを前面に出しています。

  • **ANAは「挑戦・可能性・柔軟性」**を打ち出し、テクノロジーの活用や顧客の多様なニーズへの対応力を訴求しています。

どちらの戦略が優れている、という話ではありません。大切なのは、責任感の方向性がぶれていないこと。そして、それがブランドの印象と一貫していること。この整合性が、顧客の信頼を支えているのです。


■ 顧客が選ぶのは「どんな責任感」か

旅の目的、移動の優先順位、リスク許容度は人によって異なります。だからこそ、JALとANAのように異なる責任感を明確に打ち出す戦略は、結果として「選ばれる理由」になっているのだと感じます。

顧客は価格やサービス内容だけでなく、**「この企業は、いざというときどう動くか」**という姿勢も見ています。


■ 次回予告:現場の裁量と責任感

次回は、この「責任感」が現場レベルにどう反映されているか、つまり、現場の判断権限と責任のバランスについて掘り下げていきます。特にサービス業における「裁量のある対応」と「一貫性のある対応」の違いが、どのようにマーケティング戦略に影響しているのかを考えていきます。

つづきます😊