香港図鑑(4)通渠王

香港の街を歩いていると、電柱や壁、郵便受けの隅など、思わぬ場所に貼られている小さなスティッカーをよく目にしませんか?カラフルなデザインや大きな文字で電話番号が記載されているこれらのシール。最初は何だろうと思うかもしれませんが、実はこれ、香港特有の24時間対応の「緊急修理サービス」の広告なんです。

これらのスティッカーは、家の中で起こる様々なトラブルに対応する業者のもの。例えば、鍵を無くしてしまって家に入れなくなった時、電話一本で駆けつけてドアを開けてくれる鍵屋さんのものが代表的です。いわゆる「開鎖(鍵開け)」と呼ばれるサービスですが、考えてみると簡単に鍵を開けてもらえるというのは便利である一方、どこか怖さも感じさせます。さらに、これだけ需要があるということは、香港では実際に鍵を無くす人が多いということなのでしょう。

また、「通渠(排水管清掃)」と書かれたスティッカーも非常に多く見かけます。これは水回りのトラブルに対応する業者のもので、特にトイレや台所、浴槽(シャワー)の排水溝詰まりに対応します。香港は高温多湿な気候と高密度な住宅事情も相まって、水回りのトラブルが非常に起こりやすい環境です。台所の油汚れの蓄積や、トイレの詰まり、浴槽の髪の毛による排水不良など、住んでいると誰もが一度は経験するトラブルのため、このサービスは生活に欠かせない存在となっています。

特に香港では古い建物も多く、配管が劣化していることから、水回りのトラブルは珍しいことではありません。実際に詰まってしまったら、修理業者を呼ぶしかないわけですが、これらのスティッカー広告はまさにその時のための頼れる存在。「24時間対応」「即日駆けつけ」などの文言が強調されているのも、急なトラブルが日常茶飯事である香港ならではの事情を反映しているのです。

こうしたスティッカー広告は、香港の日常生活に深く根付いています。壁一面に貼られている場合もあれば、雑然とした街角にひっそりと貼られていることもあり、その存在はどこか香港の雑然としたエネルギッシュな雰囲気そのものを象徴しているとも言えます。その一方で、こうした広告をめぐる問題もあります。例えば、無許可での広告の貼り付けは軽視されがちですが、公共の美観を損なうとして批判の声も少なくありません。

それでも、香港に住む人々にとって、これらのスティッカーは単なる広告以上の存在。鍵を無くしたり、水回りが詰まったりといったトラブルに遭うたびに、頼れる番号がすぐ近くにあるという安心感を与えてくれます。トラブルが多いからこそ発達してきたこのサービスは、香港の生活文化そのものを反映しているのです。街を歩きながら、これらのスティッカーを見つけるたびに、香港での暮らしのリアルな一面を垣間見ることができるのではないでしょうか。