【香港図鑑40】🍓「あまおう」は香港で儲かっているのか?

― 甘くて、赤くて、ちょっと不思議な市場の話


🍓 街角の八百屋に、あまおうが並ぶ日

今月に入ってから、近所の八百屋の店先に「あまおう」が並ぶようになりました。以前なら、高級スーパーの特別コーナーにしか姿を見せなかった日本産いちごが、今では、ごく普通の果物として街中に“定着”しつつあるのです。

思い返せば、6〜7年前の香港では、本物のあまおうを見つけるのは至難の業。
運良く見つけても、価格は目を疑うほど高く、「誰が買うんだろう?」とつぶやかずにはいられないレベルでした。

その一方で、**「うまおあ」「JAかおふく」**など、パッケージだけそれっぽい“フェイクあまおう”が出回っていたのも事実。本物に飢えた市場の“隙間”を突くような存在でした。


💴 値段が下がったのはなぜ?

ところが今では、あまおうが**2パック入り1箱で60香港ドル(約1100円以下)**という価格で売られていることも。かつての“贅沢品”から、“ちょっとしたご褒美”程度の価格帯に変わってきた印象です。

この価格変動には、いくつかの要因が考えられます。

  • 販路の拡大(地元八百屋や小規模チェーンへの流通)
  • 輸送体制の効率化
  • 日本国内の供給量の増加
  • 為替の影響(円安)

しかし、ここでひとつ不思議な点が浮かび上がります。同じ時期に、日本ではもっと高値で販売されていたという事実。なぜ輸出される果物が、現地よりも安く売られているのか?この現象には、単なる価格競争以上の「構造的な違和感」が漂っています。


📦 この値段で、利益は出るのか?

あまおうは、福岡県が誇る高品質ブランドいちご。栽培には技術と時間が必要で、手間もコストもかかります。それに加えて、輸出となると:

  • 空輸コスト
  • 関税や通関手続き
  • 現地の小売マージン
  • 廃棄リスク(生鮮品ゆえに)

これらのコストを加味すると、**あの価格で利益が出るのか?**という疑問は拭えません。

もちろん、薄利多売のビジネスモデルが成立している可能性もあります。あるいは、“見切り品”に近いロットを海外に回しているというケースも考えられます。
しかし、品質の高さを維持したまま、コストを吸収できるのかは謎のままです。


🔄 海外で安く、国内で高く――価格のねじれ

こうした構図は、あまおうに限らず、日本の農産物全体に共通する現象かもしれません。

  • 日本の物価は上昇傾向
  • 円安により、輸出先での価格が“相対的に”安く見える
  • 生産者はコスト増に直面しながらも、海外市場を頼らざるを得ない

結果として、**「海外の方が安く買える」**という逆転現象が起きています。これは、価格と価値の関係が、どこか歪んでいることの表れとも言えます。

たとえば、日本ではスーパーで1パック1000円以上する高級いちごが、香港では1000円以下で手に入る――そんな逆転が、日常的に起きているのです。


📈 香港での“売れる”は、持続可能なのか?

現地で消費者として生活している身としては、安価に高品質の日本産いちごが手に入ることは、素直に嬉しい。けれど、その裏側にある構造を見ると、どこか不安定さも感じざるを得ません。

  • 人気が定着すれば、価格は安定するのか?
  • 価格競争が激化すれば、品質は保たれるのか?
  • 生産者にとって、持続可能なモデルとなっているのか?

これらの問いは、単に一つの商品にとどまりません。日本の農業、流通、海外戦略そのものに関わるテーマです。


✍️ まとめ:あまおうの未来は、香港の先にある?

「あまおう」が香港で“普通に”買えるようになったという事実は、日本産果物にとって一つの成功事例に見えるかもしれません。しかし、その裏には、価格と価値のバランスに関する根深い問題が潜んでいます。

海外での人気が一過性のブームで終わらず、生産者、流通業者、消費者の三者にとって持続可能な循環が築かれること。それが、この赤くて甘い果実の未来を明るくする鍵になるはずです。

香港での動向は、その“未来”を映す鏡のひとつかもしれません。今日も八百屋の店頭で、つややかな赤がひときわ目を引いています。

 

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