【マーケの種33】MTR広告の影響力

香港の地下鉄(MTR)は、トラディショナルな広告媒体でありながら、今なお強力な影響力を持つ花形チャネルのひとつです。香港の人口は約730万人ですが、そのうち毎日500万人がMTRを利用するとされています。この膨大な乗降客数を考えれば、駅構内の広告がどれほどのリーチを生むかは明らかでしょう。特に商業・ビジネスの中心地である銅鑼湾(Causeway Bay)駅のコンコースに定期的にブランド広告を掲載することで、圧倒的な認知の獲得が期待できます。

今回お手伝いしているのはサプリメントのブランドです。このカテゴリーは競合商品が多く、差別化が極めて難しいため、広告戦略が成功の鍵を握ります。消費者の視点から見ると、商品の成分や機能性だけでなく、タレントやモデルを起用しているかどうかも購入意欲に大きな影響を与えます。視覚的なインパクトを持たせることで、ブランドの印象を強く残し、選ばれる確率が高まるのです。そのため、MTRのような圧倒的な視認性を持つ広告媒体は、特に導入期において商品のUSP(Unique Selling Proposition)を消費者に強く訴求するのに非常に有効な手段となります。

また、これは日本でも同様ですが、消費者向けの広告展開が積極的に行われているブランドは、小売店のバイヤーからの評価も高まる傾向にあります。目立つロケーションで広告が展開されていれば、それだけ店舗側も「売れる商品」と判断し、取り扱いを増やす動きが生まれます。実際、香港のサプリメント市場でトップ3に入るブランドは全て、積極的かつ継続的にMTRの広告媒体を活用しています。小売店との交渉においても、消費者への認知度が高いという事実が、販売スペースの確保やプロモーションの優遇を引き出す武器となるのです。

かつての広告理論では、「広く認知を集め、その後購買の刈り取りを行う」という手法が一般的でした。しかし、デジタル広告が主流となった現在では、認知形成がオンラインだけでは完結しづらいという課題も浮かび上がっています。特に店舗での購入が主流のカテゴリーでは、デジタル広告だけでは小売店への影響力が弱く、消費者の購買行動に十分な刺激を与えられないこともあります。その点、MTRのようなマス向けの広告は、認知拡大と実店舗での販売促進を両立させる強力な手段となります。

もちろん、このような広告を継続的に展開するには、相応の支出が必要です。しかし、リーチの規模やリターンを考えれば、それに見合う価値が十分にあると言えるでしょう。大規模な認知獲得が期待できるMTR広告は、香港市場でのブランド成長を加速させる重要な要素なのです。