【香港図鑑32】ファン広告


「推し活」が街を彩る:バス広告と誕生日イベントが示すファンダム文化の現在地

香港の街角で、ふと目に留まるバス停広告やダブルデッカーバスの車体ラッピング。企業広告ではなく、アイドルの誕生日を祝うファンからのメッセージだった――そんな光景が、ここ数年でぐっと増えてきました。

以前からK-POPファンを中心に、こうした「推し活(=応援するアイドルや俳優を積極的に支援する活動)」の一環としての広告出稿は香港でも見られていましたが、やはりローカルグループであるMIRRORCOLLARの登場以降、その熱量と広がりは一段と加速した印象があります。

ファンクラブが主導し、メンバーの誕生日に合わせて広告を出すのは今や定番の応援スタイル。中でも目を引くのが、公共空間での展開です。MTR構内の電子パネルや繁華街の巨大LEDスクリーンを使ったバースデー映像、さらにはラッピングバスの運行など、規模もクリエイティブ性も年々進化しています。

当日には、ファンが手作りのマスコットやスローガン入りグッズを持って現地を訪れ、記念撮影を楽しむ姿も珍しくありません。SNS上では「#推し活記録」というハッシュタグで、現場の様子をリアルタイムで共有する文化も定着しつつあります。

こうした現象は、単なる“応援”にとどまらず、都市空間を使ったファン主導の**パブリック・エクスプレッション(公共表現)**とも言えるでしょう。広告枠を買い取る行為そのものが、ファンの“愛”の表現手段となっており、一種の参加型マーケティングのかたちを成しています。

また、企業や広告関係者にとっても、こうしたファンダムの動きは注視すべきトレンドです。ファンの行動力、資金力、発信力はときにブランドキャンペーンを凌駕するほどのインパクトを持ち、コミュニティの熱量がどのように可視化されるのかを理解することは、今後のマーケティング戦略を立てるうえで重要な示唆となるでしょう。

誰かの誕生日が、街の風景を少しだけ変える。
その小さな奇跡が、今日も香港のどこかで起きています。

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