香港島と九龍を結ぶスターフェリー。
その航路は、ただの移動手段というよりも、ビクトリアハーバーの風景そのものと言ってもいいかもしれません。
尖沙咀から中環へ向かうフェリーに乗ると、ちょうど海の真ん中あたりでふっとスピードが緩む瞬間があります。夜、天気が良ければその一瞬がとても贅沢な時間になります。湾岸沿いの高層ビル群がきらめき、ネオンの光が水面に踊り、香港という都市の“顔”が静かに目の前に広がるのです。
昔の中環側のフェリーターミナルは、マンダリン・オリエンタル・ホテルのすぐそば、まさに街の中心にありました。
その頃、尖沙咀にオフィスがあった私は、時間があればフェリーで中環まで行ったり来たりしていました。わずか10分足らずの船旅ですが、波の音と潮風に包まれるその時間は、仕事の合間のちょっとしたリセットにもなっていたのです。
しかし、再開発と埋め立てにより、フェリーターミナルは今や海から内陸側に押しやられ、上陸してから中心街までは長い陸橋を歩かなければなりません。都市が便利になる一方で、かつての“ちょうど良い距離感”が失われてしまったことに、少し寂しさを感じます。
それでも、スターフェリーは変わらず海を渡り続けています。
1階席の木製ベンチ、昔ながらの緑と白の塗装、そして汽笛の音。どれも少しも変わっていないことが、かえって新しく感じられる今日この頃です。
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