【香港図鑑39】🎣 干物を作る

― 静かに流れる都市の“ゆるやかな秩序”


🌊 漁港ではない場所で、営まれる静かな“漁”

ここは漁港ではありません。むしろ、看板にはっきりと「釣り禁止」と書かれている場所です。それでも、夕暮れ時になると、海辺には数人の人影がぽつりぽつり。誰に急かされることもなく、そっと竿を垂らして海を見つめています。

釣った魚は、その場で干されることもあります。ロープに吊るされ、潮風に吹かれながら、魚の体がゆっくりと乾いていく。日差しを浴びて光るその姿は、まるで一枚の静物画のようです。

この風景は、観光地でも名所でもない、ごく日常の一幕。それでも、よく見るとそこには香港らしい“空気感”が漂っています。


🚫「ぬるさ」ではなく、「ゆるやかさ」

こうした光景を見ると、「警察は何をしているのだろう?」と考える人もいるかもしれません。しかし、香港の公安は何も見て見ぬふりをしているわけではありません。必要な場面ではしっかりと取り締まりが行われています。

一方で、こうした軽微な違反にまで目くじらを立てることは、あまりありません。それは、都市としてのバランス感覚のようなものかもしれません。

  • 小さな自由は許容する
  • だが、本当に危険なことには厳しく対処する

この“緩やかな秩序”こそが、香港の都市文化を形づくっているのかもしれません。結果として、香港はアジアの中でも比較的治安の良い都市として知られており、日常生活の中で「怖さ」や「不安」を感じることはあまりありません。

自由すぎず、厳しすぎない。そんな絶妙なバランスが、都市の“住みやすさ”を支えているように思えます。


🐟 干物が無事に仕上がる理由:猫が少ない街

もうひとつ、興味深いことがあります。干されている魚が、野良猫に盗られてしまう心配があまりないという点です。

もちろん、香港にも猫はいます。市場の裏手や古い団地の階段下で、ひっそりと暮らす姿を見かけることはあります。けれど、日本のように堂々と道路を歩く猫を頻繁に見ることはあまりありません。

そのため、釣り人が干した魚が、無事に乾燥を終える確率が高いのです。魚たちは、海から揚げられ、風にさらされ、太陽に照らされながら、やがて香ばしい干物へと姿を変えていきます。

まるでそれが、自然な都市の営みの一部であるかのように。


 

📷 今日もどこかで、魚が乾いていく

今日もどこかで、風に揺れる魚の姿があるかもしれません。
それは、誰かの夕食になるかもしれないし、ただの趣味かもしれない。
でも、その行為自体が、香港という都市の“リズム”の一部を奏でているように感じられます。

厳密さだけでは語れない街。正しさと寛容さが、静かに共存する場所。そんな香港の一角で、干物は今日も、ゆっくりと仕上がっていきます。

■香港でのマーケティングインサイト調査もTYAにお任せください。