― 甘くて、赤くて、ちょっと不思議な市場の話
🍓 街角の八百屋に、あまおうが並ぶ日
今月に入ってから、近所の八百屋の店先に「あまおう」が並ぶようになりました。以前なら、高級スーパーの特別コーナーにしか姿を見せなかった日本産いちごが、今では、ごく普通の果物として街中に“定着”しつつあるのです。
思い返せば、6〜7年前の香港では、本物のあまおうを見つけるのは至難の業。
運良く見つけても、価格は目を疑うほど高く、「誰が買うんだろう?」とつぶやかずにはいられないレベルでした。
その一方で、**「うまおあ」「JAかおふく」**など、パッケージだけそれっぽい“フェイクあまおう”が出回っていたのも事実。本物に飢えた市場の“隙間”を突くような存在でした。
💴 値段が下がったのはなぜ?
ところが今では、あまおうが**2パック入り1箱で60香港ドル(約1100円以下)**という価格で売られていることも。かつての“贅沢品”から、“ちょっとしたご褒美”程度の価格帯に変わってきた印象です。
この価格変動には、いくつかの要因が考えられます。
- 販路の拡大(地元八百屋や小規模チェーンへの流通)
- 輸送体制の効率化
- 日本国内の供給量の増加
- 為替の影響(円安)
しかし、ここでひとつ不思議な点が浮かび上がります。同じ時期に、日本ではもっと高値で販売されていたという事実。なぜ輸出される果物が、現地よりも安く売られているのか?この現象には、単なる価格競争以上の「構造的な違和感」が漂っています。
📦 この値段で、利益は出るのか?
あまおうは、福岡県が誇る高品質ブランドいちご。栽培には技術と時間が必要で、手間もコストもかかります。それに加えて、輸出となると:
- 空輸コスト
- 関税や通関手続き
- 現地の小売マージン
- 廃棄リスク(生鮮品ゆえに)
これらのコストを加味すると、**あの価格で利益が出るのか?**という疑問は拭えません。
もちろん、薄利多売のビジネスモデルが成立している可能性もあります。あるいは、“見切り品”に近いロットを海外に回しているというケースも考えられます。
しかし、品質の高さを維持したまま、コストを吸収できるのかは謎のままです。
🔄 海外で安く、国内で高く――価格のねじれ
こうした構図は、あまおうに限らず、日本の農産物全体に共通する現象かもしれません。
- 日本の物価は上昇傾向
- 円安により、輸出先での価格が“相対的に”安く見える
- 生産者はコスト増に直面しながらも、海外市場を頼らざるを得ない
結果として、**「海外の方が安く買える」**という逆転現象が起きています。これは、価格と価値の関係が、どこか歪んでいることの表れとも言えます。
たとえば、日本ではスーパーで1パック1000円以上する高級いちごが、香港では1000円以下で手に入る――そんな逆転が、日常的に起きているのです。
📈 香港での“売れる”は、持続可能なのか?
現地で消費者として生活している身としては、安価に高品質の日本産いちごが手に入ることは、素直に嬉しい。けれど、その裏側にある構造を見ると、どこか不安定さも感じざるを得ません。
- 人気が定着すれば、価格は安定するのか?
- 価格競争が激化すれば、品質は保たれるのか?
- 生産者にとって、持続可能なモデルとなっているのか?
これらの問いは、単に一つの商品にとどまりません。日本の農業、流通、海外戦略そのものに関わるテーマです。
✍️ まとめ:あまおうの未来は、香港の先にある?
「あまおう」が香港で“普通に”買えるようになったという事実は、日本産果物にとって一つの成功事例に見えるかもしれません。しかし、その裏には、価格と価値のバランスに関する根深い問題が潜んでいます。
海外での人気が一過性のブームで終わらず、生産者、流通業者、消費者の三者にとって持続可能な循環が築かれること。それが、この赤くて甘い果実の未来を明るくする鍵になるはずです。
香港での動向は、その“未来”を映す鏡のひとつかもしれません。今日も八百屋の店頭で、つややかな赤がひときわ目を引いています。
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