香港の中心部には、50〜60年前に建てられた5階建てほどの古い建物が今も数多く残っています。時代の流れとともに、街の景観は大きく変わりつつありますが、こうした建物は依然として街の一部として機能しています。かつては住居として使われていたのかもしれませんが、現在ではエステ、ネイルサロン、マッサージ店などの小規模な個人経営の店舗がひっそりと営業を続けています。
このタイプの建物には、エレベーターがないことがほとんどです。細い階段を上ると、各階に小さな看板が掲げられ、どこか秘密めいた雰囲気を漂わせています。こうした建物の中には、古びた配電盤がむき出しのまま設置されていることが多く、一歩足を踏み入れると、まるで時代を遡ったかのような感覚に陥ります。
雑然とした配電盤が語るもの
建物の入り口や廊下にある配電盤は、驚くほど雑然としており、絡み合う配線がむき出しの状態になっています。電線が入り乱れ、どこへつながっているのかすら分からないほどの複雑さ。今にも漏電しそうな雰囲気さえ漂い、初めて見る人は少し不安を感じるかもしれません。しかし、地元の人々にとっては、この光景は日常の一部。特に気にする様子もなく、日々の暮らしを送っています。
こうした配電盤の存在は、香港の持つ**「レトロな魅力」**を象徴するもののひとつかもしれません。かつての香港を知る人々にとって、こうした建物や配線は、昔ながらの街並みの名残でもあります。急速に発展を続ける香港の中で、こうした場所が今も残っていること自体が、ある種のノスタルジーを感じさせるのです。
モダンとレトロとカオスが共存する街
香港といえば、高層ビルが立ち並ぶ近未来的な都市というイメージが強いかもしれません。しかし、その一方で、こうした古い建物や雑然とした配線が残るエリアも共存しているのが、香港の魅力のひとつです。
たとえば、ガラス張りの近代的なショッピングモールのすぐ裏手には、古びた雑居ビルが並んでいるというように、新旧の風景が入り混じっています。エアコンの室外機が無造作に突き出し、狭い路地には屋台が軒を連ねる。そんなカオスな風景こそが、香港らしさを形作っています。
観光客の中には、こうした雑多な雰囲気に惹かれる人も多いようです。整然とした都市とはまったく異なる、混沌としたエネルギー。どこか懐かしく、しかしどこか刺激的なこの風景は、香港を旅する人々にとって、忘れがたい印象を残します。
古びた配電盤が映し出す香港の個性
地元の人々にとっては、もしかすると「単なる古い建物」でしかないかもしれません。しかし、こうした場所に魅力を感じるのは、香港の持つ独特の個性を感じ取れるからではないでしょうか。
モダンな都市開発と、歴史を感じさせる古い建物。清潔で洗練されたショッピングエリアと、少し雑然としたローカルな街並み。その両方が同じ空間に共存しているからこそ、香港は唯一無二の魅力を持っているのです。
次に香港を訪れた際には、ぜひ街角の配電盤にも目を向けてみてください。そこには、この街が歩んできた歴史と、人々の暮らしが刻まれているのかもしれません。