【香港図鑑55】パンダエコノミー 🐼

— 可愛さの裏にある、観光戦略の課題


🐼 街に現れた2,500体のパンダたち

「かわいい〜!」と誰もが足を止めてしまう光景が、先月の香港の街中に広がっていました。
遊歩道、公園、ショッピングモールなど、あちこちに出現したのは、なんと2,500体のパンダの置物。高さはおよそ50cmほどで、ポーズも表情も微妙に違う。ひとつひとつが個性的で、見ていて飽きません。

実はこの数、世界に生息する野生のパンダの推定個体数に合わせているそうです。
つまり、このイベントには「絶滅危惧種への理解を深める」というメッセージも込められていたとのこと。
環境への関心と、SNS映えする“かわいさ”を両立した、現代的なプロモーションのかたちですね。


🦆 アイコニックな展示で人を呼ぶ、香港の十八番スタイル

こうしたキャラクターを使った大規模展示、香港ではもうおなじみの手法です。
思い返せば、巨大なラバーダックがヴィクトリア・ハーバーを漂っていたのも、もう10年以上前。
その後もドラえもんの立体展示、ピカチュウの大行進など、“アイコニックな何か”を使って人を呼ぶスタイルは、たびたびメディアを賑わせてきました。
今回のパンダ展示も、実は約15年ぶりの再登場
政府主導の観光活性化政策の一環として、「誰にでもわかりやすく、写真に残したくなる仕掛け」が再び採用されたというわけです。
見た目のインパクト、SNSでの拡散力、親子連れや観光客への訴求力…。
たしかに、短期的には非常に効果的な手法と言えるでしょう。


🤔 でも、それって本当に“香港らしさ”?

ただ、こうした手法に対して、近年では冷静な視点も増えてきています。
先日、香港科技大学の教授と学生がSouth China Morning Postに寄稿していた記事では、
「香港の観光戦略は、外から借りてきた“わかりやすさ”に頼りすぎていないか?」という問いが投げかけられていました。
たしかに、パンダもドラえもんもピカチュウも、“香港生まれ”ではありません
いわば“輸入された魅力”を借りて、一時的な盛り上がりを演出している。
でも、その先に続く「記憶」や「再訪意欲」につながっているかというと、少し疑問が残ります。
可愛い。楽しい。でも、「香港らしさ」って、なんだったんだっけ?
そんなふうに感じた人も、少なくなかったかもしれません。


🌿 “本当の魅力”をどう見せていくか

香港には、たくさんの“本物の魅力”が隠れています。
中心部の喧騒を離れれば、離島の静かなビーチや、緑あふれるハイキングコースが広がっているし、
歴史ある寺院、マーケット、下町の食堂など、多文化が共存する都市としての奥行きもあります。
こうした魅力をどう発信していくか。
それを考えることが、観光地としての“信頼”を築くうえで避けて通れないテーマだと思います。
もちろん、パンダの置物を否定するつもりはありません。
それはそれで、人を引きつける“きっかけ”になるし、楽しい記憶として残ることもあるでしょう。
でもやっぱり、その先にもう一段、「香港ってこういう街だったんだ」と心に残る実感があると、
観光地としての魅力も、もっと“深く、長く”伝わるのではないかと思います。


💬 あなたにとって、“香港らしさ”とは?

かわいいパンダたちを見上げながら、ふと立ち止まってそんなことを考えました。
「観光」って、何だろう。
「らしさ」って、何だろう。
人を呼ぶことも大事。注目を集めることも必要。
でもその根っこにある、“その土地にしかない空気”をどう伝えるかが、これからの観光戦略にはますます問われていく気がします。
みなさんは、どう思いますか?
あなたが思う“香港らしさ”、ぜひ教えてください。
(了)