ここ数年、「シェアリングエコノミー」という言葉をあちこちで耳にするようになりました。シェアリングエコノミーとは、デジタルテクノロジーを活用して、物、サービス、場所などを共有・交換することによって成り立つ新たな経済の形です。ますます領域を広げている様々な形のシェアサービスが世界中で大流行しています。
一方、香港や日本ではあまり盛り上がってないのはなぜでしょうか?今後はどのような進化を見せるのでしょうか?
まず世界に先んじてシェアリングエコノミーが広まっているアメリカについておさらいしてみましょう。
Uber、Airbnbを始めとして、多くの大手シェアリングエコノミー企業の発祥地アメリカでは、大部分の消費者がシェアリングエコノミーにすでに慣れてしまっている、と言えそうです。新しい産業としてどんどん拡大していくと同時に、利用中に生じた問題、データーの管理方法や個人情報流出、利用者の安全性と利益保護に関する疑問などネガティブな広がりも否めません。しかしそれは、いち早く次の課題を捉えていとも言えます。
爆速で広がる中国のシェアリングエコノミー。
この流行に素早く反応したのは中国。各種のサービスが登場するや否や消費者に大歓迎され、中国のシェアリングエコノミー市場は急成長しています。最初のシェアバイク(摩拝単車とofo)の流行からライドシェア(滴滴出行=UBERを撤退させました)、フードデリバリー、民宿、駐車場、充電バッテリー、傘から贅沢品に至り、日常生活の各領域に次々とその範囲を拡大していきました。アリババやテンセント、百度などの大手ネット企業と連携したサービスは、巨額の投資資金を得て、ますますビジネスを拡大しています。更に、中国政府も積極的な姿勢で新産業を支援しているので、その速度は爆速です。
中国でシェアサービスがここまで広がる要因は、国民的SNS(Wechat)と国民的モバイル決済(Wechat PayやAlibaba Pay)の普及にあるでしょう。例えば、配車サービスを利用する場合、配車の依頼から支払いまで全てスマートフォン一台で簡単にでき、すぐにタクシーを捕まえられる上に、普通のタクシーより、やや安価な価格になっているので、利用者からは非常に好まれています。
また、ネットで知り合った人とシェアハウスをしたり、タクシーに乗る際にも見知らぬ人とタクシーを相乗りすることも厭わない中国人にとっては、元々シェアには抵抗感が薄いということも原因の一つだといえそうです。
もちろんシェアサービスは良いことばかりではありません。滴滴と契約しているドライバーへの審査と管理が不足で、殺人や強姦悪性事件が頻繁に起こり、大々的に批判されています。便利さと最大利益を求めるあまり「法律無視あるいは法律違反ギリギリの経営をやってもよい、問題が起これば事後に補償すればよい。」という考えは問題があります。今後、法的な規制や安全性への配慮を高めていく必要がありそうです。
香港での現状。
「アジアの国際都市」香港ではどうでしょうか。香港Uberが頻繁に既存のタクシー業界との軋轢や、法的規制との間で、葛藤にさらされています。「白タク行為」としてドライバーが逮捕されたり、タクシー業界にも強く反発されています。また、シェアバイクはサービスを開始してすぐに、利用者が破壊したり、不法投棄を行うなどの様々なトラブルが相次いだために、半年も経たずに撤退することになりました。
それだけではなく、香港人は政府の承認を得ていない非公式なサービスに対する不信感が高いと言えそうです。土地が狭くて、各種のインフラも既に整備されている香港での暮しは、元々非常に便利なのでアメリカや中国で流行っているシェアサービスがそのまま香港に進出してもうまく機能しないものもあります。
しかし、香港ではシェアリングエコノミーがある分野において順調に発展しています。その一例としては、コワーキングスペースが挙げられるでしょう。オフィス家賃が高いため、スタートアップ、起業家、フリーランサーにコワーキングスペースを提供する会社が増えてきます。国際的な人材が集まる香港ならではの新しいシェアリングエコノミーの形かもしれません。
日本では?
香港と同じように、日本もシェアリングエコノミーの大潮流から乗り遅れているのでしょうか?Uberが2013年より都心部で試験運用を開始しましたが、ドライバーのライセンス許可などに対する厳しい規制やタクシー業界の強い反発によって期待したほどの大きな広がりは見られませんでした。2018年「民泊新法」の施行は各地の民泊に制限が強く、事実上の民泊禁止法となっていて、Airbnbなどにも大きな影響を与えそうです。シェアリングエコノミーは、もともと先進国の浪費的なライフスタイルに対する反省から提唱されたという側面もあります。で、あればフリマや本やCDなどの中古市場が、それなりの規模で展開されている日本で盛り上がらないのは不思議に思えます。
背景として、香港とも共通の理由があるかもしれません。元々インフラが完備されていて便利な日本社会で、厳しい法律上の規制と既存業界からの強い反発もあるとすればシェアリングエコノミーが発展することが難しい、ということではないでしょうか。また、利便さより先に安全性の確保やプライバシーの保護をという意見が出て来れば、考慮せざるを得ません。
とはいうものも、いかにも日本特有のサービスも生まれています。例えば、家事を始め、子どものお迎え、ペットの世話などを「ご近所サポーター」と呼ばれるで近所のスキルのある人に依頼できる「ANYTIMES(エニタイムズ)」というサービスや、父母に代わって日本に住む優秀な留学生や帰国子女が子供の送迎を代行する「お迎えシスター」など。また、メルカリはものを大切に使うことを重んじてきた日本人としては、とても面白い現象だと言えそうです。日本特有のサービスはこれからもどんどん出てきそうです。
そして何より、様々なサービスや、人、お金が越境して入ってきているグローバルな時代です。既存業界との共存も模索されていますし、何より高齢化社会の日本は変わっていかなくてはいけません。環境の整備があれば、日本のシェアリングエコノミー市場の拡大には拍車がかかっていくのではないかという期待もあります。
今年9月末、中国の配車大手の滴滴出行は日本のソフトバンクと合弁会社を設立。スマートフォンアプリでタクシーの配車依頼ができるサービスを大阪市で始めました。タクシー業界からの反発に考慮し、日本最大手のタクシー事業者とも連携をしています。シェアサービスの安全性と個人情報保護を高めるための規制と管理を改善する検討も行われているので、利用者も安心して利用できるようになる見込みで、期待が高まります。
まとめ
シェアリングエコノミー。必ずしも大きな市場でシェアを獲得したプラットフォームが他の地域でも勝者になるのではなく、その国・地域や人々の習慣に合わせたローカライズが重要であると言えそうです。伝統的な企業やITジャイアント、少数精鋭のスタートアップなど様々なサービスが勃興しては融合を繰り返し、ものすごいスピードで拡大していきます。中でもアジア市場!ますます目が離せません。香港・日本を股に掛けてアジアに繰り出すマーケティングならTYAにお尋ねください!