香港図鑑(10)【ネオンサイン】

香港島の立ち並ぶネオンサインが映す時代の変化

かつて香港島の夜景は、日本企業のネオンサインが輝く光景の象徴でもありました。15年前、ビクトリア・ハーバーを眺めると、日立、東芝、三洋、キヤノン、リコー、シチズン、セイコー、オリンパス、シャープ、YKK、ニコンといった、日本を代表する企業の名前がずらりと並び、その光景はまさに日本の経済力と存在感を示すものでした。


しかし、2024年現在、それらのネオンサインはほとんど姿を消し、残ったのはパナソニックイオンのわずか2社のみ。15年前の圧倒的な存在感を思い返すと、寂しさを感じずにはいられません。

この変化の背景にはいくつかの要因が考えられます。一つは、近年の日本企業の国際競争力の低下です。かつて世界を席巻した日本の家電メーカーや精密機械メーカーは、韓国や中国、さらには欧米の企業にそのシェアを奪われ、グローバル市場でのプレゼンスを失いつつあります。香港におけるネオンサインの撤退は、その象徴的な出来事と言えるでしょう。例えば、東芝やシャープは一時代を築いたものの、現在では経営再編や買収により、往年の力強さを失っています。かつての「ジャパンブランド」の輝きが薄れていく中で、香港の街並みから姿を消したこともまた、時代の流れを感じさせます。

さらに、香港自体の経済構造の変化も無視できません。香港は中国本土との結びつきを強める中で、経済的にも政治的にも中国企業の影響力が大きくなっています。現在では、中国企業のネオンサインが目立つようになり、かつての日本企業のようにその存在感を示しています。香港の街を歩けば、中国のテクノロジー企業や銀行、保険会社などの看板が目に入ることが増えました。これもまた、時代の移り変わりを象徴していると言えるでしょう。

一方で、日本国内でも、土地や建物、観光地が外国資本に「安く買われてしまう」という現象が進んでいます。特に中国資本による買収が増えており、国内で危機感を抱く声も少なくありません。観光地では、外国人向けの宿泊施設や商業施設が増加し、地元住民が利用しにくくなるケースも見られます。これらの現象は、日本国内外での日本の存在感の低下を象徴しているようにも思えます。

こうした現実を前に、「日本はこのままで良いのか?」という疑問が浮かびます。失われていくのはネオンサインだけではありません。海外での日本のプレゼンス、国内の土地や文化、それらが次第に手放されていく中で、未来の日本はどうあるべきなのでしょうか。香港のネオンサインが語るのは、単なる過去の栄光ではなく、今後の日本の進むべき道を考えさせる課題でもあります。

パナソニックとイオンの2社が残るという事実は、日本の企業が完全に消え去ったわけではないことを示していますが、かつての輝きが失われていることもまた事実です。この変化を「時代の流れ」として受け入れるだけで良いのか、それとも何か行動を起こすべきなのか。香港島の立ち並ぶネオンサインは、私たちにそういった問いを投げかけているように感じます。