
目指す場所は同じはずなのに
ある日、ある大手メーカーのGM(ゼネラルマネージャー)から、Instagramを活用したユーザーエンゲージメント施策の相談を受けました。ブランドの認知を高めたい──その目的は共有されていました。
そこで私たちは、SNSならではの距離感や、共感を軸としたブランディング戦略を提案しました。動画コンテンツによる日常的な発信、ブランド哲学を伝える投稿、ユーザーとの対話を促す企画。短期的な数字よりも、中長期での信頼構築を重視した設計です。
しかし、最終的に選ばれたのは、まったく異なる方向性でした。
すれ違った「ブランディング」の定義
GMが選んだのは、インフルエンサーを大量に起用して短期間でバズを狙う、派手な広告キャンペーン。「ブランディング」の言葉を使ってはいましたが、そこに込められていた意味合いは、**「話題になること」=「ブランド構築」**という、極めて短期的な視点でした。
これにより、せっかくのSNSの特性を生かした施策は見送られ、ブランドの世界観をじっくり伝える機会も、ユーザーとの地道な関係構築のチャンスも、失われることになりました。
背景にある「デジタル軽視」の文化
このすれ違いの背景には、デジタル施策=軽くて速いものという先入観が企業内に根強くあることが見えてきました。SNSや動画発信は、短期の販促には向いていても、ブランドの本質を伝える器ではないと捉えられている。そのため、ブランディングという言葉を使っていても、実際には**「プロモーションの延長線」**としてしか見ていない場合があるのです。
けれど、現代のユーザーは、広告らしい広告にすぐ気づき、距離を取ります。共感や信頼をベースにした関係性こそが、ブランド価値を支える土台になっていることに、もっと目を向ける必要があるのではないか。
そんなことを思わずにはいられませんでした。ボタンのかけ違いは、早めに気づくことが大切
今回の事例が示しているのは、「言葉の定義がずれていると、話し合いが成立しない」という、ごく基本的だけれど重要な教訓です。「ブランディング」という言葉ひとつとっても、その中身は人によって大きく異なります。 だからこそ、最初の段階で目的・価値観・時間軸の認識合わせを丁寧に行うことが、マーケティングの現場ではますます重要になってきています。
次回は、この事例から得られた教訓をもとに、
「ズレ」をどう防ぐか? マーケターがとるべきコミュニケーション設計とは? について、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。(続)