
香港では、築50年、60年といったアパートがごく普通に街のなかにあります。再開発が進む一方で、古い建物もしぶとく残っていて、むしろその雑多な混在こそが、香港らしさのひとつなのかもしれません。
このビルも、長年この場所で使われ続けてきた建物です。外壁の色はところどころ変色し、壁面には細かなひびが走っています。ベランダの柵や窓のフレームにも、長年の風雨にさらされた痕跡が見て取れます。それでも、完全に放置されているわけではなく、こうして定期的に補修工事が行われています。工事用の足場が組まれ、カバーシートがかかると、街の風景が一時的に変わります。
建物の1階にはイタリア料理のレストランが入っていて、ランチ時や夕方にはそこそこにぎわいがあります。道路を挟んだ向かいには海浜公園へ渡る横断歩道があり、車の通行も人の流れも多い場所です。そんななか、少し前に3階部分の外壁が1メートル四方ほど剥がれ落ちるという出来事がありました。早朝だったため、通行人はおらず、けが人も出ませんでしたが、もし時間帯がずれていたらと思うと、少しぞっとします。
こうした古いビルの補修は、住民が費用を出し合って行うケースが多く、工事の回数や規模もまちまちです。落下事故が起きてから対応されることも少なくありません。とはいえ、建物が古いからといってすぐに壊すわけではないのが、この街の流儀のようです。壊して建て直すよりも、直して使い続けることを選ぶ。そこには実利もあるし、ある種の愛着も含まれているのかもしれません。
街を歩いていると、ふと頭上を見上げる習慣がつきました。 壁、窓、足場、ひび、カバーシート。そこにあるのは、今もなお使われている建物の、日々の姿です。 ■香港図鑑いかがでしたか?香港でのマーケティングインサイト調査もTYAにお任せください