「このスープ美味しいね、薬の味がする」
香港の友人と台湾式牛肉麺を食べたとき、彼女がそう言いました。私には、その感想がかなり新鮮に感じました。「薬の味」と、美味しいという感想が、自分の中で結びついていなかったからだと思います。日本では、薬の味がする食べ物はまずありません。しかしごくまれに、保存料や香料のきつい食品が、そのように感じるのではないでしょうか。私の中では、「薬」は人工的で、気持ち悪い味というイメージでした。
香港人である彼女の中では、薬というのはもっと有機的な味のイメージと結びついているのではないかと思います。医食同源の考え方が強い中華文化圏では、漢方を取り入れた食べ物やスープがよく提供されます。日本語では「薬膳」にあたるでしょうか。
私は香港に来るまで、漢方や薬膳は、何だか怪しげで、西洋医学と違って科学的ではなく、本当に効くのかわからない、と思っていました。しかし、ここでは街中に漢方薬の店があり、漢方茶を飲めるスタンドがあり、そして大学にも漢方の専攻があります。大学で使われている漢方のテキストを見せてもらったとき、その情報量に驚いた記憶があります。そして、それだけではなく、初めにこの文献を暗記して、次にこれを学んで……というような、体系だった学問になっているようでした。
その驚きは、日本から香港にやってきて、少しの間勉強した体験の象徴的な出来事でした。現代は便利な時代です。インターネットと英語さえあれば、日本にいながらにして最新の情報と学問に触れられます。ともすれば、もはや留学なんか必要ないように思えます。しかし、やっぱり香港に来てよかったと思えるのは、自分の知らない場所で、自分の知らなかった価値観と理論によって動いている場所があるのだという、価値観の小さな揺らぎのようなものを、何度も感じたからです。
余談ですが、先日エアコンについて書きました。香港人のエアコン好きも奇妙だが、日本人のエアコン嫌いも奇妙だと。しかし、やっぱりエアコンは体に悪いのではないでしょうか。喉をやられてしまいました。
閑話休題。
漢方学専攻の友人に教わって、喉に効く梨の薬膳を作ってみました。効いている気はするけれど、西洋医学でいうプラシーボ効果というやつかもしれません。でも美味しかったです。薬の味がして。