【香港図鑑35】ワイルドな引越し──スピード vs. 安全、どちらを取る?

引越し。
それは、人生のなかでもなかなかのエネルギーを要するイベントです。
日本で引越しといえば、ダンボールをきっちりと積み上げ、養生シートで壁や床を保護し、作業スタッフも丁寧な言葉遣いで動いてくれる…そんなイメージを持つ方が多いかもしれません。

ところが香港で引越しを経験すると、そのスピード感に思わず唖然とすることがあります。
パッキングが終わっていなくても、家具がバラせなくても、ローカルの引越し業者はお構いなし。
足りない梱包材の代わりにビニールシートをぐるぐる巻いて、あっという間に運び出してしまいます。
「え、これで本当に大丈夫?」と不安になるほどですが、率直に言えば「大丈夫じゃないこともある」のが現実です。

実際、搬送中に家具が何かにぶつかれば、傷やへこみがつくこともあります。
だからと言って、彼らが手を抜いているわけではなく、**“とにかく早く終わらせる”**という香港ならではの価値観がそこにあるのです。
つまり、引越しは「スピードとコスト」を重視するか、「丁寧さと安全性」を優先するか、選択の問題ということになります。


日本式サービスとの違い

香港にも日系の引越し会社や運送会社は進出しており、日本と同様の丁寧な梱包やきめ細かな対応を提供しています。
ただし、それは当然ながら価格にも反映されます。
ローカル業者のスピード重視スタイルと比べると、費用は倍近くになることもあります。

また、依頼者側の意識にも違いがあります。
日系業者に頼む場合、依頼者自身も慎重にパッキングを行う傾向がありますが、それでもプロセスや仕上がりにはっきりとした差があります。
「丁寧で安心だけど高い」か、「早いけどちょっとワイルド」か——その選択が、引越しの体験を大きく左右します。


突然の電話と“ゆるさ”の受け止め方

香港の引越しでよくあるのが、突然の電話。
「今、近くまで来たから今から行ってもいい?」という感じで、予定の何時間も前に連絡がくることもあります。
こうした段取りの曖昧さを「困る」と感じるか、「融通が利いてありがたい」と受け取るかは人それぞれです。

日本のように時間通り、手順通りに物事を進める文化に慣れていると、こうした“ゆるさ”に戸惑うかもしれません。
でも、逆に言えば、あまり神経質にならずに済むという気楽さもあります。
ただし、そんな自由な引越しで、もし大切なお茶碗が割れてしまったら…。
そのときは、「やっぱり日本式の丁寧な引越しが良かったな」と思わずにはいられないかもしれません。


異文化に触れるということ

引越しを通じて見えてくるのは、単なるサービスの違い以上に、文化や価値観の違いです。
効率を求める香港、手順と安心を重んじる日本。
どちらが正しいというわけではなく、どちらにも良さがあります。
大切なのは、異なる文化に対して柔軟な視点を持つこと
そのバランス感覚が、海外での生活をより豊かにしてくれるのかもしれません。

 

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