【香港図鑑45】マインド・ザ・ギャップ

香港の地下鉄(MTR)では、次の駅が近づくと、車内にアナウンスが流れます。
まず広東語、続いて英語、そして今では北京語も加わり、合計3言語で案内されるのが標準スタイルです。

「次は〇〇駅です」「ドアが閉まります。ご注意ください」など、乗客に向けた案内が、リズムよく、分かりやすく流れていきます。

その中でも印象的なのが、「ホームとの隙間にご注意ください」というメッセージ。英語では “Mind the gap.” とアナウンスされます。この短くてシンプルなフレーズ、初めて聞いたときには妙に耳に残ったものです。

ところで、この “gap” という単語、昔の香港では「ギャップ」というより、明らかに「ガップ」という発音で聞こえていました。当時の自分は、「これがイギリス英語なのか!」と、ちょっとしたカルチャーショックを受けた記憶があります。(イギリス英語特有の、あの硬質な発音です。)

しかし、時代とともに発音も変わり、現在では「ギャップ」に近い響きで流れるようになりました。あの「ガップ」という独特の音が、今ではなんだか懐かしく感じられます。

そういえば、香港の公共空間における言語表記も、時代とともに変化してきました。植民地時代から返還後しばらくの間、香港の印刷物や案内表示は、中国語と英語のバイリンガル表記が当たり前でした。駅の標識、道路標識、政府の公式文書など、どこを見ても2言語対応。街そのものが、まるで「2つの言語を持つ都市」として成り立っていたのです。

しかし、返還から年数が経つにつれて、中国語(主に繁体字)のみで表記するケースも増えてきました。英語が完全になくなるわけではありませんが、メインの表記ではなく、サブキャプション的な扱いになったり、必要に応じて別バージョンで用意されたりすることが多くなりました。

とはいえ、今でも日常生活で目にする標識や案内表示には、必ずと言っていいほど英語が含まれています。地下鉄の駅名も、バス停の案内も、観光地の標識も、英語なしでは成り立たない。こうした点を見ても、香港はやはり “English-speaking region”(英語を使う地域)だと言えるでしょう。(あくまで「国」ではなく「地域」です。)

香港は、街を歩くだけでも、文化や言葉のミックス感を肌で感じられる場所です。伝統と現代が入り混じり、広東語と英語が行き交う、そんな独特のリズムを、ぜひ一度、体感しに来てください。きっと、何気ないアナウンスの一言にも、香港らしさを感じることができるはずです。

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