【マーケの種38】詐欺広告のマーケティング手法(2)

― キャセイ航空“偽キャンペーン”の裏側にある心理操作

「ビジネスクラスが2人で12万円!?」
そんな夢のような価格の広告がSNSで突如拡散され、大きな話題となりました。
実はこれ、旅行会社を装った詐欺広告の一例。しかも、その構成は驚くほど“マーケティング的”に練られていたのです。

🎭 信頼感を演出する“設定”

この詐欺広告では、実在しない旅行会社3社を名乗り、ブランドの信頼性を装う仕掛けが施されていました。見た目は整ったWebサイト、ロゴ、キャンペーンバナー。どれも一見すると本物のように見える作りです。

さらにSNSのコメント欄には、あらかじめ用意された“サクラ”の投稿が並びます。

  • 「予約完了しました!本当にこの価格で取れたんです!」
  • 「友達と行く予定です!情報ありがとうございます!」
  • 「すでに残席わずかみたいです。急いで!」

こうした投稿が並ぶことで、見る人の警戒心は薄れ、「自分も乗り遅れたくない」と申し込みへと誘導されていくのです。これは、マーケティングでよく知られる**「社会的証明(ソーシャルプルーフ)」**の心理効果を悪用した典型的な手口です。


🧠 ソーシャルプルーフの“裏切り”

本来、ソーシャルプルーフは、消費者がより良い選択をするための「判断材料」として機能します。

  • レビューの数
  • SNSでの人気
  • 知人のおすすめ

しかし、詐欺広告ではこれが意図的に“偽装”されることで、本来あるべき「第三者の視点」が信頼の仮面をかぶった罠になってしまうのです。これは、マーケティング手法がいかに強力であるか、そして悪用されたときの影響力の大きさを示しています。


⚠️ なぜ、こんな広告が拡散されてしまうのか?

「なぜこんな広告が表示されるの?」
「どうしてSNSの運営が放っておくの?」
こうした疑問はもっともです。

実は、SNSプラットフォームの広告審査体制には大きな限界があります。

  • X(旧Twitter)、Meta(Facebook・Instagram)などの広告審査は、主にAIによる自動チェックがベース
  • そのため、不正広告が検出されるまでに時間がかかる
  • 通報や検出の前に、一定期間は表示され続けてしまう

さらに、詐欺師はアカウントを短期間で切り替えながら運用しているため、1つの広告が削除されても、すぐに別のアカウントから同様の広告が再投稿されてしまうという、いわば“イタチごっこ”が続いているのです。


💰 なぜ、詐欺広告は“ビジネス”として成立してしまうのか?

詐欺広告が後を絶たない理由は、極めて効率の良いビジネスモデルが成り立っているからです。

たとえば、キャセイ航空の偽キャンペーン広告を見て、仮に1,000人のうち1%(10人)が騙され、1人あたり5万円を送金したとします。

  • 収益:10人 × 5万円 = 50万円
  • 広告費:数万円程度(ターゲティング広告ならもっと安価な可能性も)
  • 利益:高額

つまり、少数の被害者でも十分なリターンが得られるため、詐欺師にとってリスクは低く、リターンは高いという構造になっているのです。

しかも、マーケティング技術を使って**「本物らしさ」を徹底的に演出**するため、一見して見抜くのが難しいという点も、被害を拡大させる要因になっています。


🔍 次回予告:私たちはどう対抗すべきか?

このように、詐欺広告はマーケティング手法を巧みに悪用し、人の心理とテクノロジーの隙間を突いてくる存在です。

では、こうした広告にどう対抗すればいいのか?消費者として、企業として、ブランドとして、どんな目と行動が求められるのか?

次回は、詐欺広告を見抜くための「心理的チェックポイント」と、企業が取るべきブランド防衛の具体策について詳しく掘り下げていきます。💡✨(続)