
香港の寺院を訪れると、天井から吊り下げられた渦巻き型の線香が、ゆっくりと煙を上げているのを見かけます。
その姿は、どこか空に向かって祈りが昇っていくようにも見え、印象に残る風景のひとつです。
この渦巻き型線香は、日本ではあまり馴染みのないものですが、香港では道教や仏教の儀式で広く使われています。
長時間燃え続けることが特徴で、ひとつの線香が数時間、あるいはそれ以上も燃え続けるため、大規模な祈願や供養に向いています。
「絶え間ない祈りが天に届きますように」という願いを、その持続する煙に託しているのかもしれません。一方、日本で一般的なのは棒状の線香です。 家庭の仏壇で使いやすく、短時間で燃え切るため、日々の供養やお参りにちょうどよい仕様です。コンパクトで扱いやすいことが、日本の生活習慣に合っていたのかもしれません。
また、渦巻き型線香は、基本的に天井などから吊るして使うことが前提です。香港の寺院のように高い天井や、煙が抜ける構造のある空間でこそ、その形状が活きてきます。日本の家庭ではそのようなスペースを確保するのが難しく、実用面でも棒状の方が使いやすいという事情があるのでしょう。
そして、日本で“渦巻き”といえば、やはり蚊取り線香。夏の風物詩として定着しており、「渦巻き=殺虫剤」というイメージが強く、宗教的な用途とはなかなか結びつきにくいのかもしれません。仮に寺院で渦巻き型線香が吊るされていたとしても、つい「虫よけかな?」と思ってしまいそうです。
歴史的にも、日本では江戸時代から棒状線香が普及し、渦巻き型が宗教用途で浸透する機会が少なかったようです。その一方で、香港では寺院文化とともに、渦巻き線香が自然に定着していきました。
線香の形の違いから、その土地の暮らしや信仰のかたちが見えてくる。そんなところに、文化を観察する面白さがあるように思います。
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