香港人のアイデンティティ

香港人は自分たちのアイデンティティをどうとらえているのだろう。

先日、香港返還時点の香港人アーティストへのインタビューを何本か読んだのだが、彼らの多くが香港に対して現在と大きく異なる見方を持っていたことに驚いた。返還時点では、世界から興味を失われることへの恐怖と、支配から解放された自由への希望、中国に回帰したという安心感などを語るひとが多かった。これは今の世論とは少々異なっている。しかし同時に、制度の転換と変わらない日常の狭間で、自分たちは結局何者になるのかというぼんやりとした問いを抱えていることも記されていた。

Oscar Chan Yik Long 《Like a Ghost/如是者》(2015)

香港人のアイデンティティを規定するのは、おにぎりを食べながら桜を見上げて「日本人で良かった」と安らぐように簡単なことではない。むしろ、中華圏の伝統に垢抜けた西洋文化、そして東南アジアの熱気を併せ持つ混沌そのものがアイデンティティとも言えるだろう。

そのなかでしいて言うなら、香港には固有の観光資源である街がある。海沿いの高層ビルや密集する高層住宅、看板の飛び出す色鮮やかな下町といった街並みは多様さを巻き込んで常に変化を遂げながら観光客を魅了してきた。Quarry bay周辺のマンション郡は最近日本でもSNSを通じて認知度が高まり、観光客がひっきりなしに写真を撮っている。(住宅にはかれらの生活があり、遠慮なく生活圏に踏み込む様子には疑問を覚えるが。)

香港といえば独特の街並みを連想する人がほとんどだろう。Made in HongKongのプロダクトはなくとも、街並みは人と共にある。

土地の狭さゆえにできたこの街並みは観光資源として観光客を惹き寄せる。一方皮肉なことに、その狭さからなる地価高騰は格差のもとにもなり深刻な社会問題となっている。アイデンティティがアイデンティティを潰す構造が出来上がっていると言うのは言い過ぎだろうか。

香港人のアイデンティティはどこへ向かうのだろう。

私が興味を持っているのは、混沌のなかに生きるひとのもつ声だ。結局モノのほとんどない香港を作っているのは人である。多様なものを取り込むことの上手い彼らがそれをどのように消化し、発信していくのかに注目していきたい。

ちょうど香港政府は、今後の成長に優位性のある6産業のひとつとしてカルチャー・クリエイティブを取り上げている。文化の交差点として新たに生み出される反応に、期待が高まる。

OSCAR CHAN YIK LONG: http://www.oscarchan.com/like-a-ghost–229142615932773.html

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