──雑然とした温もりと、突然の別れ──
島にある小さなタイ料理店。観光地でも中心街でもない、穏やかな離島の一角にありながら、周囲には中国料理、インド料理、韓国料理、ベジタリアン向けカフェまで並び、想像以上に多国籍で競争の激しい商店街です。
その中で、このタイ料理店は、決して目立つ店構えではないのに、どこか引き寄せられるような雰囲気を持っていました😊

女主人は、かつて千葉で生活していた経験があり、日本語は日常的な会話なら自然にやり取りできるほど流暢です。厨房からホールまでフル回転しながら、大学生の娘さんと、その友人らしい若者が手際よくフォローする姿は、島の暮らしと家族の営みがそのまま重なって見えます。忙しさの中にも、どこか家族経営らしい温かさが漂っていました。
店内は広くはなく、いわゆる“きれいに整えられた”感じとは程遠い。色も形もバラバラのテーブルと椅子、雑然と並ぶ調味料瓶、壁のメニュー写真の中にも古いものが紛れ込んでいます。それでも不思議と落ち着く空間で、むしろその無造作さが“島の店らしい素直さ”を感じさせ、気がつけば何度も足を運ぶようになっていました。
特に忘れられないのは、注文するたびに香りが立ちのぼるガパオライス。強火で一気に炒められたバジルの香り、やや濃いめに仕上げた味付け、そして半熟の目玉焼きのコントラストが絶妙で、香港の離島でこんなに本格的な味に出会えるとは!あの一皿のために船に乗って訪れる価値があったと思っています。

だがある日、久しぶりに行ってみると、店は跡形もなく消えていたのです。看板も、メニューの写真も、店名の痕跡すら残っていません。まるで最初から存在しなかったかのように静かな空きスペースだけがそこにありました。移転なのか閉店なのかは分からないが、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになりました。また食べたいな、あの香り高いガパオライス。あれは、あの島の日常に溶け込んでいた、かけがえのない味でありました。
■参考記事:香港政府観光局「ラマ島」
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