【マーケの種 99】責任感とマーケティング戦略⑤

スクラブルの文字タイルで「BE KIND(親切になろう)」という言葉が作られている。企業の社会的責任(CSR)の根底にある、他者を思いやる気持ちを象徴する写真。
― CSRはブランドの約束を社会に向けて語る ― ■ 「社会との関わり方」もブランド戦略の一部です かつて、CSR(企業の社会的責任)は経営の“おまけ”のように扱われていた時代がありました。ですがいまや、CSRはマーケティング戦略の中核に位置づけられるようになっています。
顧客は、企業が社会に対してどのような姿勢をとっているかをしっかりと見ています。製品やサービスの質だけでなく、その企業を選ぶことがどんな価値につながるのかを評価する時代。つまり、企業活動の“外側”に向けた責任感が、そのままブランドの信頼性に直結しているのです。 ■ 日本的CSR:共生と地域密着 日本の企業では、CSR活動において地域とのつながりや社会との共生を重視する傾向があります。 たとえば── 地元の清掃活動や祭りへの協賛 社員によるボランティア参加 地域の小学校とのコラボ授業や寄付活動 こうした取り組みは、即座に売上に結びつくものではありませんが、 「私たちはこの街の一員です」という誠意の表明として受け取られます。 また、環境への配慮も、“未来の世代のために”という責任感の表れとして位置づけられています。日本のCSRは、人と人との信頼関係を丁寧に耕すような活動が特徴的です。 ■ 欧米的CSR:透明性と倫理性の重視 一方、欧米企業のCSRには、情報公開・倫理・説明責任といったキーワードが並びます。「私たちは、こういう基準で行動しています」と、明確なスタンスを表明することが評価されるのです。 たとえば── サプライチェーンにおける児童労働の排除 二酸化炭素排出量の定量的な開示 多様性・包摂(D&I)に関する社内比率の公表 これらはすべて、「どんな価値観に基づいて経営しているか」を数値と事実で示す姿勢です。 つまり欧米的CSRは、社会全体に対する“ルールの遵守”と“説明責任”という責任感に根ざしています。そのため、マーケティングでも「持続可能性」「倫理的製品」「フェアトレード」などが重要な訴求軸になります。 ■ 「社会にどんな姿勢を示すか」が選ばれる理由になる ここ数年、特にZ世代を中心に、「この企業を選ぶことで、どんな社会的意味があるか」を重視する動きが高まっています。いわゆる**“価値観消費”**は、製品のスペックや価格だけでは語りきれない、企業の姿勢そのものが購買の動機になっているという現象です。 この流れの中で、CSRは単なる「いいこと」ではなく、ブランドの本質を表現する手段として扱われるようになりました。広告や公式サイトでCSR活動を積極的に紹介する企業が増えているのも、「私たちの責任のかたちは、こうです」と語ることが信頼の入口になっているからです。 ■ CSRの設計もマーケティングの一部 CSR活動が企業のマーケティングに組み込まれるということは、単に“正しいことをする”だけでなく、“どのように伝えるか”も戦略の一環になるということです。 どんな社会課題に取り組むのか どんな方法で実践しているのか どんな言葉で顧客に共有するのか これらを丁寧に設計することで、CSRは企業の価値観を社会とつなぐ言語になり、結果としてブランドへの信頼や共感を育てていきます。 ■ 次回予告:危機対応にこそ、責任感が問われる 次回は、企業の「責任感」が最も試される瞬間──トラブルや危機への対応について掘り下げます。通常時のふるまい以上に、非常時の姿勢がブランドの本質を映し出します。イメージダウンを避けるためだけではない、誠意ある危機管理とマーケティングの関係を考えていきます。 つづきます😊