
― ロイヤルティは責任感から生まれる ―
■ 「好き」だけでは続かない
企業と顧客の関係は、出会って終わりではありません。むしろそこからが本番であり、いかに継続的に選ばれ続けるかがブランド戦略の重要なテーマです。この “選ばれ続ける状態” を、マーケティングでは顧客ロイヤルティと呼びます。
ロイヤルティは、単なる「満足」や「好意」とは異なります。一時的な感情ではなく、“このブランドなら信頼できる”という継続的な確信に支えられているのです。
その確信の核にあるものこそ、企業の責任感だと私は考えています。
■ 日本的ロイヤルティ:誠意の積み重ね
日本では、企業の誠実な対応がロイヤルティの源泉になるケースが多く見られます。たとえば、トラブルが起きたときの丁寧な謝罪や、日頃の感謝を伝える手紙や小さな贈り物。こうした行動は、直接的な利益にはつながりにくいかもしれませんが、「この会社はちゃんとしている」という印象を積み重ねていきます。
また、長年の利用者に対して特別な案内をしたり、過去の購入履歴をもとに個別の提案をしたりすることも、責任を持って相手と向き合っている証として受け取られます。
つまり、日本型のロイヤルティは、「期待を超える誠意」によって築かれていく側面が強いのです。
■ 欧米的ロイヤルティ:契約の信頼性
一方で欧米では、ロイヤルティは契約や制度の信頼性によって成立します。 定められた条件のもとでサービスが安定的に提供されている、その一貫性そのものが「信頼できるブランド」の証となります。
たとえば、ポイントプログラムやメンバーシップ制度など、ルールに基づいて公平に提供される特典が、長期的な関係の動機になります。そこに感情的なやりとりはあまり含まれていません。むしろ、「毎回同じだけの価値を提供してくれる」ことが評価されます。
ここでも重要なのは、責任をどう果たしているかという視点です。 日本が「相手の期待に応え続ける責任」なら、欧米は「約束を守り続ける責任」。
どちらも違う形で、ロイヤルティの土台を支えているのです。■ ロイヤルティ向上施策にも責任感がにじむ
企業が行うロイヤルティ向上の施策を見ても、その背景にある責任感の違いが見えてきます。
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日本企業は、「感謝の気持ち」や「絆」をテーマにしたキャンペーンやDM送付など、人とのつながりを訴求する企画が多く見られます。
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欧米企業は、利用実績に応じた明確なリワードを提供し、「使えば使うほど得をする」仕組みを重視します。
どちらもロイヤルティを高めるための戦略ですが、そこに込められているのは、文化ごとの責任の示し方の美学なのです。
■ 「信頼のかたち」をどう設計するか
ブランドロイヤルティは、優れた商品や華やかな広告だけでは生まれません。むしろ、地道で透明な責任感の積み重ねこそが、信頼の礎になります。
顧客は見ています。
困ったときにどう対応してくれるか、長く使ったときにどんな扱いを受けるか。その一つひとつが、ロイヤルティの形成に静かに効いていくのです。■ 次回予告:社会に対する責任も、ブランド戦略
次回は、企業が社会や環境に対して果たす責任──つまりCSR(企業の社会的責任)に注目していきます。近年、CSRは単なる「いいこと」ではなく、明確なブランド戦略の一部として機能しはじめています。
責任感がどのように社会との接点を形づくっているのかを見ていきます。つづきます😊