【香港図鑑129:ブランディング】その看板、ちょっと変?──TSTで見た日本企業の“現地流”ブランディング術

香港・尖沙咀(TST)のビル壁面に掲げられた「贅沢な日本料理」とアピールする大喜屋と、マツモトキヨシの目立つ看板
香港の心臓部であり、常に世界中からの観光客と地元の人々でごった返す街、尖沙咀(Tsim Sha Tsui, TST)。一歩足を踏み入れれば、巨大な看板の洪水が目に飛び込んできます。ここは、まさにブランドの生存競争が繰り広げられる最前線。そんな中で、ふと見かける日系店舗の看板に、思わず「ん?」と立ち止まってしまうことがあります。

■ 大喜屋の「贅沢」という名のド直球ストレート 😮

商業ビルの壁面に、ひときわ目立つ日本料理店「大喜屋」の看板。そこには、日本語で堂々とこう書かれています。 「贅沢な日本料理」 日本人の感覚からすると、「自分で『贅沢』って言っちゃうんだ!」と、少し驚いてしまうかもしれません。日本では、高級感や贅沢さは、素材へのこだわりや店の佇まい、歴史といった要素で“匂わせる”のが一般的。ここまでストレートな表現は、どこか気恥ずかしさを感じてしまうほどです。 しかし、これは香港という市場を理解した上での戦略なのかもしれません。無数の飲食店がひしめくこの街では、「当店はどんな価値を提供できるのか」を一瞬で伝えきる必要があります。「高級」「食べ放題」「新鮮」といった分かりやすいキーワードこそが、消費者の足を止める最も有効なフックになるのです。この直球すぎる表現は、香港の消費者に対する「私たちは、あなたがお金を払う価値のある、豪華な体験を約束します」という力強い宣言なのでしょう。

■ マツキヨは「ユニーク」な存在?🇯🇵

続いて、ドラッグストアの巨人「マツモトキヨシ」。香港でもその人気は絶大で、2021年に香港初進出を果たして以来、すでに10店舗以上を展開するほどの勢いです。その看板に添えられているキャッチコピーが、これまた興味深いのです。 「Japanese Unique Drug Store」 日本人にとってマツキヨは、日本全国どこにでもある“スタンダード”な存在。それを「ユニーク(独自の)」と表現することに、少し違和感を覚えるかもしれません。しかし、これも現地の競合に目を向ければ納得がいきます。香港には「Watson’s」や「Mannings」といった強力なローカルチェーンが存在します。それらと比較したとき、日本の最新コスメや医薬品、独自の商品ラインナップを揃えたマツキヨは、紛れもなく**「ユニーク」な選択肢**です。この一言は、「他店とは違う、日本ならではの体験がここにありますよ」という差別化戦略を、的確に表現しているのです。

■ ズレてる?それとも計算?文化の翻訳が生むブランディング

これらの看板を見て感じる「ちょっと不思議なセンス」の正体は、おそらく文化的な“翻訳”の過程で生まれるズレです。日本人が当たり前だと思っている文脈や価値観とは違いますね。
日本での「当たり前」: 察してもらう文化、行間で伝える美学 香港での「正解」: 直接的な表現、一瞬で伝わる価値
このズレは、決して失敗ではなく、むしろ現地市場で勝ち抜くための**計算されたローカライゼーション(現地化)**と見るべきなのかもしれません。日本人が感じる「違和感」こそが、香港の消費者にとっては「分かりやすさ」や「新しさ」として魅力的に映っている可能性があります。

■ 結論:目立つが勝ち!尖沙咀のサバイバル戦略

結局のところ、世界有数の商業激戦区である尖沙咀で最も重要なのは何か。それは、**「まず、目立つこと。そして、一瞬で価値を伝えること」**に尽きるのかもしれません。 洗練さや奥ゆかしさも素晴らしい価値ですが、それが埋もれてしまっては意味がない。少しばかり直球すぎたり、奇妙に聞こえたりしても、それが顧客の注意を引き、店の扉を開かせるきっかけになるのなら、それは「正解」のブランディングなのでしょう。 そう考えると、これらの看板たちは、異文化の中で奮闘する日本企業のしたたかな戦略を物語っているようです。もしかしたら、私たちが感じた「不思議なセンス」こそが、彼らがこの地で成功している最大の理由なのかもしれませんね🤔。 ■香港図鑑いかがでしたか?香港でのマーケティングインサイト調査もTYAにお任せください。(こちらの記事”【香港図鑑36】コスパいいサンドイッチが欲しい:香港のサンドイッチ事情”もいかがですか?)